甲状腺関連の核医学検査ならびに治療の際に、ヨード含有品の摂取制限を患者に指導する。
我々の施設では、摂取率測定および機能亢進症の治療では1週間、甲状腺癌の治療では2週間のヨード制限を行っている。これは、前者では、ヨード制限不足は摂取率の低値から、窺い知ることができるのに対して、甲状腺癌の転移巣に131I集積がなくても、それがヨード制限不足によるテクニカルエラーなのか、病変の生物学的特徴を反映した所見なのかが鑑別困難だからである。仮に、血液あるいは尿の無機ヨードを測定しても、その結果が判明するのは投与後になってしまう。
したがって、甲状腺癌の治療では、より厳格にヨード制限を指導している。また、ヨード過剰摂取の食餌歴がある場合、腎機能障害や甲状腺機能低下症では、ヨード禁止期間を延長する。
核医学診療で用いる放射性ヨード(123Iあるいは131I)はトレーサ量であり、物質量としてはごく微量である。これらは安定同位体の127Iと化学的性質が同一であるため、甲状腺あるいは甲状腺癌組織に取り込まれる。
甲状腺癌治療の目的では、3700から7400 MBqの131Iを投与する。1850 MBqに含まれる無機ヨードの重量(物質量)はわずかに9μgである1)。
成人における1日の無機ヨードの必要量が100から150μgであるのに対して、日本人は1,000から4,000μgを摂取するといわれている。
体内にヨードプールが過剰に存在すれば、物質量としてわずかの放射性ヨードは、ターゲットに十分到達できなくなる。これが、放射性ヨードの投与に先立って、食事のヨード摂取制限が必須な理由である。
我々の施設では、131I治療の場合、ヨード制限開始前に栄養士による食事指導を励行している。制限する食品の一覧を表に示す。主として、海藻類および回遊魚と貝である。
伊藤病院(伊藤公一院長、東京都渋谷区)のホームページにヨード制限中の献立例が掲載されている。外来患者にとっては、非常に実利的な情報である。
米国でのヨード摂取量は1日1、000μg程度であるが、日本人は多くのヨードを主に海藻類から摂取する。とりわけコンブは、乾燥重量の約0.2%から0.3%のヨードを含有する2)。すなわち、弁当などについてくるコンブの佃煮2-3枚で15、000μgものヨードを摂取することになる。また、コンブでだしをとる場合、だし汁には20%から35%のヨードが溶出する3)。
料理の本を参考に計算すると、5人前で、水1Lに対して、20gのだしコンブを用いれば、みそ汁1人前で3、000μg程度のヨード含量となる。1杯のコンブの入った吸い物には、10、000μgのヨードが含有されるとの報告もある4)。コンブはそれ以外の海草類と比べても圧倒的にヨード含量が多いため、コンブに関しては、特に慎重な食事指導が必要と思われる。
コンブだしは、外食の場合何に入っているかわからないため、制限期間中は可能な限り、外食を控えてもらうしかないと考えている。
コンブだしと並んで食品への混入頻度の高い物質として、昆布エキスがあげられる。インスタントみそ汁、たとえば「あさげ」、「ひるげ」、「ゆうげ」(以上、永谷園)や、だし入り味噌「料亭の味」(マルコメ)やだし入り醤油には無論含まれている。また、カップ麺、たとえば「どん兵衛」(日清食品)、「赤いきつね」(マルちゃん 東洋水産)なども同様である。また、合わせ調味料のSBドライカレーの素やSBガーリックライスの素にも昆布エキスが含まれている。
さらに、予想外な飲食物に添加されているとの患者情報が徐々に寄せられている。「十六茶」は、十六種類の自然素材のブレンド茶としてアサヒ飲料から販売されているが、この十六の成分の一つが昆布エキスである。したがって、十六茶は銘柄指定で制限品目としている。スポーツ飲料では、ポカリスウェット(大塚製薬)とアクエリアス(コカ・コーラ)が双璧であろうが、このうちアクエリアスには昆布エキスが含まれている。これなどは、説明に際して銘柄指定では、かえって混乱を生じるため、スポーツ飲料全般を禁止せざるを得ない。また、一部のヨーグルトやプリンには、とろみ付けのために寒天が添加されていることがある。グリコのヨーグルトが、その一例である。
我々は、ヨード制限中にタラを食べたために、131Iの治療効果が不良となった26歳の男性甲状腺機能亢進症々例を経験した。
外来で、治療計画のためにおこなった123I甲状腺摂取率測定では、24時間値が44.5%であったが、1週間後の入院治療時には131I摂取率が23.9%と低下し、有効半減期も1.6日に短縮した。治療直前の食事内容を検討したところ、タラが原因ではないかと疑われた。そこでタラを摂取する前後でヨード摂取率が変化するか否かをタラ負荷により検討を行った。タラを食べる前の123I摂取率は37.9%であったが、タラを負荷した後の123I摂取率は17.6%であり、有意にヨード摂取率が低下したと判明した。この経験から、タラも制限品目としている。
欧米では、ヨード欠乏による甲状腺疾患(甲状腺腫)を防ぐため、ヨードを添加した食塩が普及している。そのため、欧米の成書では、塩分の強い食品、たとえば、ポテトチップス、ナッツ、サラミ、ベーコン、ソーセージなどもヨード制限品目として挙がっている5)。
同様にピザやパンも市販品は避けて、ホームメイドを薦めている。我が国では、一般に流通している食塩は、ヨードを含有していない。しかしながら、輸入食品に関しては、上記の品目には注意する。
成分にヨードを含有する薬品を一覧表にまとめた。"飲み合わせ"に遭遇する臨床的な確率の高い薬剤は、ヨード造影剤、殺菌・消毒用ヨード製剤、総合感冒薬(ダンリッチ)であろう。また、甲状腺ホルモンを含む薬剤、たとえば、乾燥甲状腺(チラージン 、チレオイド)、レボチロキシンナトリウム(チラージンS)、リオチロニンナトリウム(チロナミン、サイロニン)、更年期障害治療薬(メサルモンF)もヨード制限中には、中止する必要がある。
ヨード制限を厳密に実施するためには、具体的に制限品目を明示しなければ、診療の結果に大きな影響を及ぼすことになる。我々は、ヨード制限不十分によるテクニカルエラーを一度ならず経験してきた。その経験を開示することで、読者諸氏の日常臨床に役立てば幸いである。本項で述べたヨード含有食品は、流通する食品すべてを検討した結果ではなく、ヨードの含有が明らかな物を個別にピックアップしたに過ぎない。したがって、これら以外にも思わぬ食品にヨードが含まれている可能性がある。
もし、この他にもヨードの含有量が多く注意すべき食品があれば、教室のホームページあるいは下記のメール宛にご連絡頂ければ、知識の共有ができるであろう。
食品中のヨード含有量(mg/100g)を参考に上げておく