Tc-99m-HMDP骨シンチグラフィ(図1)では,右肘部は静注部で,左右手関節は関節炎である.左肋骨(前面像)の淡い集積は,左S1+2の原発巣のdirect bone invasionである.問題の左大腿骨遠位骨幹部の異常集積は,骨転移も否定できないものの,成人ではここは脂肪髄で,通常骨転移は考えにくい部である.また異常集積の形が類長方形で,骨転移ではあまり見かけない印象を受ける.そこで,骨転移以外の病変を第一に考え,骨単純X線写真を撮影してもらった.
骨単純X線写真(図2)では,異常集積部に一致して,不整形の石灰化を認めた.はじめ骨梗塞(intramedullary bone infarct)も考えたが,辺縁の強い石灰化像(sclerotic rim)や蛇行状石灰化ではなく,内軟骨腫(enchondroma)と考えられた.数ヶ月後に,骨シンチと骨単純X線写真を撮影したが,変化を認めなかった.いずれにしろ良性病変で症状もなく,放置してよいと考えられた.(ただし,長管骨の内軟骨腫は,15-20%でmalignant degenerationを生じるので経過観察が必要である.)
解説
Shier CKら1)は,骨シンチで見られる骨幹部病変を (1) solitary hot spot,(2) hot spot and larger segment diaphyseal uptake,(3) long segment diaphyseal uptakeに分類している.Solitary hot spotの鑑別診断として,(1) 骨梗塞,(2) 好酸球性肉芽腫,(3) 骨ホジキン病,(4) 疲労性骨折,(5) 化骨性筋炎,(6) 骨転移を挙げているが,内軟骨腫には言及しておらず,Silberstein EBらの鑑別診断の本でも記載されていない.また骨シンチのアトラスでも,骨梗塞はよく記載されているが,内軟骨腫の記載はない.さらにMedlineの検索でも文献は発見できなかった.
しかし,internet上の核医学teaching file 2),3)には,本症例とそっくりの骨シンチ画像(いずれも大腿骨遠位骨幹部)が,2例提示されている.(残念ながら,2例とも骨X線写真は掲載されていない.)したがって,骨シンチで見られる骨幹部異常集積の鑑別診断に内軟骨腫を加える必要がある.