Case UK02A

核医学画像診断

• Deferoxamine (Desferal) によるGa-67 の生体内分布変化

臨床診断名

• pure red cell aplasia
• hemochromatosis

• 症例　　
  • 年齢・性 : 50 歳、女
  • 主訴と経過
    • 1982 年より、赤芽球癆で当院にて 2 週間に1 回、輸血、検査に通院中。今回貧血が高度のため、入院となる。たまたま胸腺腫のチェックのため、Ga-67 シンチが依頼された。
  • 検査所見
    • RBC 125万, WBC 3400, Hb 3.7g/dl, Hct 10.8%, Fe 247 μg/dl, フェリチン 9220.0 ng/ml　骨髄穿刺　赤芽球系の著減
    • TIBC, UIBC は、測定してない
  • 治療
    • シクロスポリン 200mg + プレドニゾロン 10mg per os
    • MAP 400ml 　2 回輸血
    • デスフェラール　1g x 19 日, 0.5g x 10 日
• 解説 　
  • 核医学画像所見は，腎と膀胱が淡く描画されるのみで、肝、骨（骨髄）、涙腺、唾液腺、鼻咽腔、腸管、外陰部などがまったく描画されず、全身の計数率が著明に低下している。Ga-67 111mBq 投与後48時間後にスキャン速度 22.5cm/min で撮影しているが、全計数は 33Kcounts で、通常例（当院では380 - 430Kcountsくらい) の 約7 - 8% しかない。すなわち、Ga-67 が、体外へ腎から大量に排泄されたことを示している。
  • このようなシンチ・パターンは、ヘモクロマトーシス治療に、deferoxamine（desferal）を使用した場合に特徴的であり、診断は容易である。
  • 当初、Ga-67 シンチグラフィを撮像中、放射線技師より、撮像中の画像がおかしいと相談された。はじめ、放射性医薬品の投与間違い（投与量、種類）や、ガンマカメラのピークずれ、違うコリメータの装着なども考えたが、いずれも否定され、同じロットのGa-67 シンチが正常に撮影されていることを確認した。次に核医学検査依頼書の診断名を、確認したところ、１）赤芽球癆、２）ヘモクロマトーシスであったので、deferoxamineによるGa-67 の生体内分布変化を疑い、入院カルテにてGa-67 の静注前、撮影日とも同剤の投与されていたことを確認した症例である。
  • 軽度の Ga-67 の生体内分布変化は、よく経験するが、このように派手なのはまれで、当院では 20 年目にして初めて遭遇した。
  • 赤芽球癆は、骨髄の赤芽球系だけが、低形成を示し、著しい貧血を呈する疾患で、１）急性と ２）慢性に大別される。また、胸腺腫を合併することがあることでも知られている。慢性例では、頻回の輸血をおこなうため、ヘモクロマトーシスを合併することがある。
  • ヘモクロマトーシスは、鉄過剰症の１つで、臓器への鉄の過剰沈着により臓器障害を来すもので、１）原発性（遺伝性）、２）続発性の２つに大別される。この症例は、頻回の輸血に伴う続発性ヘモクロマトーシスである。
    • 治療は、１）瀉血のほか、２）deferoxamine　0.5 - 1 g / 日が投与される。
  • Deferoxamineは、商品名が desferal（デスフェラール）、一般名がメシル酸フェロキサミン（deferoxamine mesylate）で、鉄キレート剤として慢性鉄過剰症、時にアルミニウム中毒症の治療に使われる。同薬剤は、鉄同様、ガリウムにも強い親和性を有し、ガリウムとdesferal の結合は、トランスフェリンよりも強く、Ga-67 の尿中排泄を著明に増加させることが知られている。
  • Datz, FLの Gamuts in Nuclear Medicine（第３版） には、 Ga-67 体内分布変化の 鑑別診断 として
    1. 薬剤性（scandium, deferoxamine, gadolinium, iron dextran)、
    2. 頻回の輸血、
    3. 血中アルミニウム濃度上昇（正確には同中毒にdeferoxamine を使用した場合）

    があげられている。MRI 用造影剤 gadolinium の場合は、Ga-67 シンチが、骨シンチ様の所見となり、また、アルミニウム中毒に deferoxamine を使用した場合は、正常の臓器分布を示さず、全身にdiffuse に、分布する。したがって、上記の gamut では同一箇所にまとめて記載されているが、ヘモクロマトーシスにdeferoxamine を使用した所見はと異なるので注意が必要である。　

• 文献
  1. Nagamachi S, Hoshi H, Jinnouchi S, Ono S, Watanabe K: Gallium -67 scintigraphy in patients with hemochromatosis treated with deferoxamine. Ann Nucl Med 2 (1): 35 - 39, 1988.
  2. Brown SJ, Slizofski WJ, Dadprvar S: Altered biodistribution of Ga-67 in patients with alminium toxicity treated with deferoxamine. J Nucle Med 31: 115 - 117 , 1990.
  3. Engelstad B, Luk SS, Hattner RS: Altered Ga-67 citrate distribution in patients with multiple red cell transfusions. Am J Roentgenol 139: 755 - ,1982.
  4. Hattnmer RS, White DL: Ga-67 / Stable gadolinium antagonism: MRI contrast agent markedly alters the normal distribution of Ga-67. J Nucl Med 31: 1844 - 1846, 1990.
  5. FDatz FL: Gallium imaging: altered biodistribution. in Gamuts in Nuclear Medicine. 3rd Ed. St Louis, 1995.　

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Update: Dec 16/98