Topics TS03
FDG-PETのTOFの画像について
金沢先進医学センター 放射線部 武田 悟
- はじめに
- 1980年代 Synder、Bundinger、Tomitaniらによって基礎理論が作られた。
- 1982年ごろ Washington University(SuperPET1)、CEALETI(TTV 01)、University of Texasなどでいくつかの装置が開発された。この時のシンチレーターはCsF、BaF2、BGOで行われた。
- CsF、BaF2は、511keVに対する阻止能が低く、エネルギー分解能が50%程度、空間分解能が12〜16mm程度、時間分解能の安定性の確保がむずかしい。これらの理由により理論に合う装置は作られなかった。また、BGOを使ったTOF-PETでも、従来方式のPETの感度を超えることができずTOF装置の開発は停滞した。
- しかし、さまざまな機器の発達により、昨年、「GE Healthcare JAPAN」からLBSシンチレーターを搭載し、TOF理論を用いた画像を作成する機器が発売され、当院にも導入されたのでTOFを使った画像をこの場で紹介する。
- TOF理論を実現できた機器Discovery PET/CT690(以後、D690)性能評価試験の結果を踏まえて紹介する。また、比較のためにBGOシンチレーターを使ったDiscovery PET/CT600(以後、D600)、Discovery ST Elite(以後、DSTE)2台のスペック値も参考値として掲載する。
- Discovery PET/CT690 特徴
- 64列CT
- 超高分解能 LBS( Lutetium Based Scintilator)
・全検出器(クリスタル)数:13824個
・検出器クリスタルのサイズ:X=4.2mm, Y=6.3mm, Z=25mm
・Module数:32個
- 画像再構成
VUE POINT Plus
VUE POINT FX(TOF)
- 呼吸同期 VARIAN社製RPM Respiratory Gating System 1.7
- 参考資料としてシンチレーターの性能表を記載する
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- Discovery PET/CT690 性能評価
- 性能評価1(感度の結果)
- 感度とは、限られた時間でより良い画像を得るための指標であるとともに、微小集積に対する検出能を示す指標となる。BGOシンチレーターがLBSシンチレーターの感度を上回る結果となった。感度が影響される因子として、クリスタルの線減弱係数、フォトフラクション及びクリスタル寸法(検出面サイズ並びに厚さ)、そして検出器リングの幾何学形状(リングの直径及び奥行き等)、光電子増倍管の性能などがあげられる。
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- 性能評価2(空間分解能の結果)
- 感度の比較だけでは性能評価するには十分でなく、微小集積を識別するためには空間分解能もまた重要な要素である。結果は3機種とも同等の性能を示す結果となった。感度と空間分解能は相反する性能であり、それぞれのバランスが重要である。
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- 性能評価3 (計数率特性(NECR&Scatter Fraction))
- 計数率特性は、PET装置の同時計数に関する時間的分解能とともに放射能増加に対する真の同時計数率の直線性を表している。また、PET画像の画質と真の同時計数率、散乱同時計数率及び偶発同時計数率とを関連付ける指標がNECRである。
- 結果は、下図に示すようにNECRはD690が優れている結果となった。
- 計数率特性が優れているということは、装置の同時計数に関する時間的分解能が高く(不感時間が短く)、視野内放射能に対する真の同時計数率の直線性がより高い放射能濃度領域まで維持されることを意味し、より高い投与量を要する検査への適合性が高いことを示すこととなる。
- 計数率特性は感度と異なり、主にクリスタルの発光減衰時間や光電子増倍管以降の電子回路(同時計数回路等)の性能などに影響される。
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- TOF(Time-of-Flight)とは?
- 検出器に到達した1対の消滅放射線の飛行時間差を計測し、発生点が対向する検出器を結ぶ直線上のどの位置にあるかを特定することで、画質の向上を期待するものである。
- TOFと時間分解能
- 下図は従来のPET装置の位置情報の書き込み方とTOFのできるPET装置の位置情報の書き込み方の違いをあらわしたものである。
- 下図は時間分解能の違いよる局所的に書き込む範囲をあらわしたものである。
- D690の時間分解能は549[psec]で、書き込み範囲は15cmになる(ちなみに光の進む速さは、1[nsec]で30cm進む。)。ノイズになる原因として、人体で散乱を起こし消滅放射線の組み合わせが劣化する「散乱同時計数」と、消滅放射線の誤った組み合わせによりあやまった位置情報をもつ「偶発同時計数」がある。従来法では、両検出器を結ぶ直線LOR(Line of response)上に、これらと「真の同時係数」すべてを書き込む方法をおこなっていたため、ノイズ成分が多くS/R比を悪くしていた。しかし、TOFでは位置情報の書き込みが限局されるため、ノイズ成分が少なくなりS/R比が向上した。
- Non TOF とTOF画像での比較 〜ファントム〜
- これまでに述べてきた性能を有する機器D690でファントムを撮影し、Non TOFとTOFの画像を比較検討してみた。
- ファントムには、Hot球とバックには放射能濃度比が4:1になるようにFDGを調整して封入した。Cold球には空気を封入し、中央はLungファントムを設置した。Non TOFとTOFの画像にROIを設定し、Hot球コントラスト(%)、Cold球コントラスト(%)、Lung Error Rate(%)として表示した。
- 結果は下図のようになり、LungファントムのNon TOF画像では、ノイズ成分がありTOF画像より抜け具合が悪い画像となった。さらに、Cold球ファントムの画像でもいえるが、TOF画像では境界が明確になった。Hot球コントラストでは、画像上違いは認められなかった。
- つぎに、計測値では、Lung Error Rate(%)の値からもわかるように、TOF画像でノイズが軽減された。Cold球コントラスト(%)では、Lung Error Rate(%)の値と似た傾向を示した。ホット球コントラスト(%)において、10mm径ファントム以外での値はどちらも違いが見られなかったが、S/N比が改善されることで10mm径のHot球コントラストは1%近く改善される結果となった。
- Non TOF とTOF画像での比較 〜臨床〜
- 左がNon TOF、右がTOFの頭部画像である。Cold球、Lungファントム実験結果同様、TOF画像では、S/N比が良く位置分解能も良いため、灰白質と白質への描出の違いが判る。
- 微小な縦隔のリンパ節転移に集積した画像で、左がNon TOF画像、右がTOF画像である。1cmHot球ファントム実験結果でもあったように、TOF画像のSUV値は1以上向上した。
- 74歳 男性 右下葉肺癌に対して放射線治療後、脳転移が見られた患者である。
小脳左に高集積を示す腫瘍が見られた。高い集積部位のSUV値は、Hot球ファントムファントム実験結果同様に、TOFを加味しても変化は見られなかった。しかし、サイズが小さく集積も低い左脳室の腫瘍では、先に見せた臨床画像と同様にSUV値は向上した。同時にCT画像とFusion画像も同時に掲載した。
- TOFを画像再構成に組み込むことでS/N比が改善され、サイズの小さいものも描出されると思われた。また、従来法と同等の画質であるのならば、撮像時間の短縮も考えられる。それが可能であるか、ファントム実験をして検証してみた。実験方法は、核医学技術学会より出されている、「がんFDG−PET撮像法ガイドライン」に則っておこなった。
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- 放射能濃度が370MBq投与相当と185MBq投与相当になる時点で撮影したものである。上段はDSTE(BGO)、中段D690(LBS) NonTOF、下段はD690(LBS)TOFである。左側の高い放射能濃度(5.3MBq/ml)で撮影を行うと、3種類の画像すべて1cmHot球ファントムの形が確認できた。右側の濃度が低く(2.65MBq/ml)なるとNonTOFでは、S/N比が低下するためか画像も劣化し1cmHot球ファントムの形が視認できなくなった。TOFが加味されることで初めて描出できるようになった。DSTEでは変わらず指摘できた。このことからも、カウントが低下するとTOFの利得が少なくなり、1cmHot球が描出できなくなる。したがって、安易な撮像時間の短縮は1cm径の腫瘍を描出するには困難な結果となった。
- 64歳男性、大腸癌術後、大腸癌術後、転移性肝癌に対してS8,4の肝臓を部分切除した患者である。
- 経過観察中に胸部〜骨盤造影CTを施行したところ、左肺に転移と腹膜転移と思われる結節が新たに見つかり、PET−CTの検査となった。(左副腎腫瘍は以前の検査でも指摘されている。)
- Early撮影MIP画像でNon TOF とTOF画像を比較した。
胸部〜骨盤造影CTで指摘されていた胸部腫瘤と左副腎に一致する集積はあったが、他に指摘するところはなかった。注射2時間後に腹部〜骨盤Delay撮影を行った。Non TOF とTOF画像両方に転移性肝がんと思われる集積が部分切除した部位に現れた。
- EarlyのAxial画像で改めて見直してみたところ、Delayで見られた集積箇所は、アーチファクトや雑音の影響からかNon TOF画像では指摘できなかった。一方、TOF画像では指摘可能であった。Delayでは収集時間を長く撮影していることで、TOFの使用に関係なく肝臓の集積が指摘できる結果となった。このことから、収集時間が短く、カウントも少ない状況では、従来の画像再構成と同じように、TOFの利得を得られない結果となった。
- 最後に呼吸同期の画像も紹介する。81歳男性 肺癌術後、定期のCT検査で右S6と左S9に結節を認められ、PET-CT検査となった患者である。Early画像で右S6の結節に一致する集積が見られたが、左S9の結節には集積が見られなかった。
- Delay撮影で呼吸同期撮影を行った。呼吸同期撮影をすることで左S9の結節に一致する集積が出現した。これは、Early画像で呼吸性移動による吸収補正のミスマッチが起こり、集積が見られない画像になった。しかし、呼吸同期撮影で吸収補正がマッチすると集積がある画像になった。
- まとめ
- 衰退したと思われたTOFの技術が、シンチレーターやその他の技術の向上により実現できるようになった。
- TOFを画像再構成に組み込むことで、感度が上がり、サイズの小さい病変が検出されるようになった。
- 文献
- Moriya T. Omura T. Watanabe M. Yamashita T. Development of a position-sensitive detector for TOF-PET. IEEE Trans Med Imaging 2008: 55; 2455-2459
- Watanabe M, Shimizu K, Omura T, Yamada R, Moriya T, Ote K, et al., TOF-PET scanner using position-sensitive detectors. IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference, Dresden, 2008.
- 小島 滋. PET装置:性能指標としての感度およびNECRについて. GE TODAY 2006: 18; 21-24
- 中嶋 恭彦. PET/CT-OncologyのためのPET/CT-TOF. INNERVISION 2008: 23; 50-51
- 澁谷憲悟,山谷泰賀, 斎藤晴雄, 越水正典, 浅井圭介, 稲玉直子 等. 速なγ線検出器とTime-of-Flight PETへの応用. Radioisotopes 2006: 55; 391-402
- 核医学検査技術学 オーム社
*本症例については、後日、「核医学画像診断」誌に掲載されます
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Update: Jun 25, 2011