Case KT03
肺静脈狭窄症
Pulmonary vein stenosis
症例解説と読影のポイント
- 解説
- 抗不整脈薬抵抗性の発作性心房細動の患者に不整脈のfocus(心房細動の場合ほとんど肺静脈内に存在する)に対して心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)を行なった後、その合併症として肺静脈狭窄症が生じた症例である。
- カテーテルアブレーションでは、まず右内頚静脈あるいは大腿静脈よりシースを挿入し、右房、右室、His束、冠静脈洞に電極カテーテルを挿入してペーシングを行いfocusの同定が行なわれる。同定後にカテーテル先端に取り付けられた電極から高周波が流されることで電気的に50〜60℃の熱が加えられ(1回当たり約30秒から1分間程度)約1〜2時間で終了する。左心房のペーシング及びアブレーションを行う時は中隔穿刺針(ブロッケンブロー針)によって右房より行なわれる。 また、左心室内を焼却する場合は動脈穿刺によるアプローチとなる。
- カテーテルアブレーションは焼灼範囲が数@と小さく危険性もなく極めて安全な治療法と考えられ、1992年頃から行なわれるようになった。2〜3日間の短期入院で施行可能なことから、現在では頻拍症治療の第一選択となっており、WPW症候群、発作性上室性頻拍では95%以上、心房粗動では90%以上の例で根治が可能と報告されている。
- 本症例では、ペーシングによって左上下肺静脈及び右下肺静脈のfocusが同定され、左下肺静脈を主体にカテーテルアブレーションが2回行なわれた。 アブレーション後に不整脈は治癒したが、1年後に労作時呼吸困難を自覚し、胸部造影CTによって肺静脈狭窄症が診断された。肺換気・血流スキャンの左肺の血流高度低下、換気正常のミスマッチ所見から肺塞栓症や動静脈シャントが鑑別診断としてあげられたが、肺動脈造影からは否定された。
- 肺静脈狭窄症には、本症例のように術後性に起こるものと先天性のものがある。術後性ではカテーテルアブレーション以外には外科的手術(総肺静脈還流異常症の矯正術が多い)によるものがある。単独の先天性肺静脈狭窄症は非常に稀であり、他の心血管系の異常と合併して発生する場合が殆どである。肺静脈狭窄症では労作時呼吸困難、咳、血痰、胸痛、反復する呼吸器感染症などの非特異的な症状がみられ、初期には肺塞栓症、肺結核、肺癌などと誤診される場合が多いと報告されている。本症例でも入院10目より血痰、胸痛、咳、発熱がみられたため、喀痰細胞診、喀痰培養、腫瘍マーカーの測定が行なわれたが、肺結核、肺癌ともに否定された。
- 肺静脈狭窄症の治療法には、経皮経管的方法(ステント、バルーニング)、肺移植などがある。前者の場合には、再狭窄の報告もあり、完全治癒は必ずしも期待できない。また後者は、ドナーの問題もあるが成功例は殆ど報告されていない。本症例の場合には、バルーニングが選択された。治療後は労作時呼吸困難の症状もかなり改善され、また入院後の肺感染症も抗生物質投与で治癒した。バルーニング後の肺血流スキャンでも、かなりの血流の改善が左肺で認められている。しかし、今後も外来での厳重なフォローアップが必要として退院となった。
- バルーニング後肺血流シンチグラフィー:
- バルーニング後3DCT:
- 文献
- Complications of pulmonary vein isolation by catheter ablation evaluated by ECG-gated multislice computed tomography. Funabashi N, Yonezawa M, Iesaka Y, Umekita H, Yanagawa N, Matsumoto Y, Yoshida K, Komuro I. Heart Vessels. 2003 Sep;18(4):220-3.
- Transcatheter angioplasty for acquired pulmonary vein stenosis after radiofrequency ablation. Qureshi AM, Prieto LR, Latson LA, Lane GK, Mesia CI, Radvansky P, White RD, Marrouche NF, Saad EB, Bash DL, Natale A, Rhodes JF. Circulation. 2003 Sep 16;108(11):1336-42.
- Total pulmonary vein occlusion as a consequence of catheter ablation for atrial fibrillation mimicking primary lung disease. Ernst S, Ouyang F, Goya M, Lober F, Schneider C, Hoffmann-Riem M, Schwarz S, Hornig K, Muller KM, Antz M, Kaukel E, Kugler C, Kuck KH. J Cardiovasc Electrophysiol. 2003 Apr;14(4):366-70.
- Relentless pulmonary vein stenosis after repair of total anomalous pulmonary venous drainage. Caldarone CA, Najm HK, Kadletz M, Smallhorn JF, Freedom RM, Williams WG, Coles JG. Ann Thorac Surg. 1998 Nov;66(5):1514-20.
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Update: Dec 16, 2003