Case KM06

Chronic thyroiditis, Reversible hypothyroidism induced by dietary excess intake of iodine

慢性甲状腺炎、食餌性ヨード過剰摂取にともなう可逆性甲状腺機能低下症

症例解説と読影のポイント

• 画像をどう読むか
  • 1. 血液データ：慢性甲状腺炎に合併した甲状腺機能低下症である。CPKの上昇は甲状腺機能低下症に伴うものである。
    2. ^99mTcスキャン：腫大した甲状腺の明瞭な描出を認め、甲状腺機能低下状態にもかかわらずuptakeは高値である。
    3. X-P：左上肺野にpacemakerをみとめ、心臓に至る電極も認める。倦怠感出現時、心拡大を認め(CTR=0.57)、症状と合わせて心不全状態と考えられる。
    4. CT(追加)：気管の前方に腫大した甲状腺を認める。甲状腺のdensityは筋肉と同程度で正常甲状腺よりも低下している。ヨード含有量が低下していることが示唆され、慢性甲状腺炎として矛盾しないものである。左胸部のアーチファクトはpacemakerによるものである。
    
    
• 解説
  • ¹²³Iによる甲状腺スキャンが予定されてヨード禁が4日間施行された後、^99mTcスキャンにより甲状腺スキャンが施行された。甲状腺は4日間のヨード禁でWolff-Chaikoff effect から離脱、TSH高値に反応し、uptake高値を示したと考えられる。
  • 甲状腺機能低下症の原因は昆布の煮物、入院前の1ヶ月はよく食べたとのこと。治療は甲状腺ホルモン製剤の投与ではなくヨード禁にての経過観察である。
    

• 参考
  1) Wolff-Chaikoff effect
  　急に血中ヨード濃度を高くすると甲状腺でのヨードの有機化が抑制される現象。慢性的に血中ヨード濃度が高い場合甲状腺へのヨード取り込みが減少し細胞内ヨード濃度を下げるので48時間後には通常の甲状腺は有機化障害からescapeし、甲状腺機能低下症にはならない。
  　しかし細胞内のヨード濃度を調整する機構が障害されていると細胞内ヨード濃度が高いままであるためにヨード有機化の抑制が続き、甲状腺機能低下症になると考えられる。
  
  2) 日本人の1日ヨード摂取量
  1日に必要なヨード量 150μg
  日本人の1日ヨード摂取量 750 - 1000 μg
  昆布ヨード含有量 ヨード 30mg/昆布10g
  →日本人は慢性的なヨード過剰摂取の状態にあり、慢性甲状腺炎などの甲状腺疾患が基礎にあるとヨード過剰摂取にともなう甲状腺機能低下症を誘発しやすい食文化といえる。

• まとめ
  • ヨード禁により¹²³I/^99mTcO₄^- uptake高値を示す甲状腺機能低下症は機能低下が可逆性であることを示唆している。治療法の第一選択が甲状腺ホルモン剤の投与ではなくヨード禁にての経過観察であることはあまり知られていない。不必要な甲状腺ホルモン製剤の投与を避けるためにも核医学検査のレポートには所見の読影だけでなく、治療法も含めた情報の記載が望ましい。

文献

1) 最新臨床核医学 第3版 (久田欣一監修、金原出版)　p362　p622
2) Michigishi T, et al. : Overt primary hypothyroidism induced by dietary excess intake of iodine: recovery from hypothyroidism and radioiodine-123 uptake into the thyroid gland. Memoirs Al. Prof. Kanazawa 19: 31-35, 1995.

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Update: Dec 11, 2002