Case HE07
脱髄性疾患
Demyelinating diseases
症例解説と読影のポイント
- 画像をどう読むか
- CT、MRIにて多発脳病巣を認める。
- 病巣は皮質下白質、傍脳室、脳梁 脳幹部に散見され、おおむね円形であり、T1強調画像で低信号、T2強調画像にて高信号、そして、造影MRIではring enhancementを呈していた。
- 多数の病巣が認められる割にはmass effectが比較的軽度であり、T1強調画像で病巣辺縁部にやや信号の高い部分が認められ、また、一部の病変ではring enhancementのリングが一部欠けている所見(open ring sign)などが認められた。
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- MRAではあきらかな異常はなく、MRSでは明らかな腫瘍のパターンは呈していなかった。
- ガリウムスキャンでは全身像であきらかな異常所見が認められなかったが、頭部SPECTにて脳内病変に一致すると思われる淡い集積が認められた。
- 臨床経過
- 急性発症した右片麻痺にて受診し、入院精査となった。
- 中枢神経疾患を思わせる既往歴は無い。
- 画像診断にて頭蓋内の多発病巣が指摘され、脳膿瘍、寄生虫感染症、原発性脳腫瘍、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫、膠原病などによる血管炎や脱髄性疾患などが鑑別にあがった。
- 身体所見上、発熱や項部硬直などは無く、生化学検査にても感染兆候は認められなかった。
- CTなどを用いた全身スクリーニングでは頭蓋外に腫瘍性病変は指摘されず、血液性化学検査、髄液検査にて、膠原病、真菌感染症、ウイルス感染症、サルコイドーシス、リンパ腫、結核などのスクリーニングはすべて陰性であった。
- 髄液検査にてはMBP(myeline basic protein)の著明な高値(2000pg/ml以上)が認められたが、オリゴクローナルバンドは陰性であった。
- 諸検査の結果より、脱髄性疾患がもっとも疑われたが、腫瘍性病変の可能性が否定しきれなかったため定位脳生検が施行され上記病理診断を得た。
- 治療にはステロイド投与が行われた。(診断確定後はステロイドパルス療法を施行した。)治療開始後、速やかに麻痺は改善し、頭蓋内病変の著明な縮小も認められた。
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- 解説
- 多発性硬化症に代表される脱髄性疾患には、まれに急激に発症して腫瘍類似の病巣を形成するものが報告されており、腫瘍との鑑別が問題となる場合がある。
- MRIなどの画像診断にて、病変分布や病変形態の特徴からある程度の鑑別は可能と思われるが、腫瘍との鑑別が難しく診断確定のために病理検査を要したという症例報告も散見される。
- 脱髄性疾患の診断における核医学検査の有用性を検討した報告はいくつかある。
- Tl-201 SPECTでは、高集積が認められ腫瘍との鑑別には有用でなかったとする報告が散見される。
- Ga-67 シンチグラフィが腫瘍との鑑別に有用か否かは、まとまった報告が見当たらず不明である。しかし、今回提示した症例と同様に、腫瘍との鑑別を要した多発性硬化症で病巣部にGa-67集積が認められたとする報告があり、リンパ腫などとの鑑別には必ずしも有用ではないように思われる。今回提示した症例のように集積が淡く認められた場合には、集積の多寡でリンパ腫と鑑別できる可能性はあるが、両者を区別する定量的な基準は存在しないと思われる。
- リンパ腫との鑑別が問題となる場合には、リンパ腫に特異的に集積、retentionするとされるI-123 IMP SPECTが有用かもしれない。しかし、I-123 IMP SPECTにても強い集積、retentionが認められリンパ腫との鑑別が困難であった症例も報告されている。
- 今回提示したような症例において、核医学検査が腫瘍性病変との鑑別に寄与する可能性はあるものと思われるが、上述のごとく、リンパ腫などとは鑑別が困難な場合も存在するため、どのような症例に対してどのような核医学検査を施行し、得られた結果をどのように解釈するかには注意が必要と思われる。
- 文献
- Hayashi T et.al. Inflammatory demyelinating disease mimicking malignant glioma J Nucl Med. 2003;44(4):565-9.
- Terada H, Kamata N. Contribution of the combination of (201)Tl SPECT and (99m)T(c)O(4)(-) SPECT to the differential diagnosis of brain tumors and tumor-like lesions. A preliminary report. J Neuroradiol. 2003;30(2):91-4.
- Sakaguchi T et.al. Increase accumulations of N-isopropyl-p-[123I]-iodoamphetamine related to tumefactive multiple sclerosis. Ann Nucl Med. 2005;19(7):603-6.
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Update: Sep 14, 2006