Case HE06

Fitz-Hugh-Curtis Syndrome

Fitz-Hugh-Curtis症候群

症例解説と読影のポイント

1. 右上腹部痛と軽度の発熱を認める若い女性の患者である。腹痛は持続性であり、圧痛、呼吸による痛みの増強を伴う。腹痛、圧痛は右上腹部に限局しており、下腹部の症状を欠いていた。採血上、白血球、CRPの軽度上昇が認められた。

2. 腹部超音波上、肝の呼吸性移動の低下が疑われたが、他には特定の疾患を示唆する異常所見は指摘されなかった。腹部CTでも特に異常所見は認められなかった。骨盤CTにて3センチ前後の左卵巣のう胞が認められたが、若年女性としては非特異的な所見と思われた。(のう胞はその後消失した。)腹膜炎の所見、腹水等は画像上明らかでなかった。(写真1)

写真1:骨盤部CT

3. 約1週間のセフェム系抗生剤投与が行われたが、症状、炎症反応の改善は認められなかった。

4. 上記臨床経過よりFitz-Hugh-Curtis Syndromeの可能性も考えられ婦人科受診となった。婦人科診察にて子宮近傍の圧痛が認められ、膣分泌液からクラミジアの核酸増幅が証明された。抗生剤をテトラサイクリン系に変更したところ速やかな症状、炎症所見の改善が認められた。

5. 以上によりFitz-Hugh-Curtis Syndromeの臨床診断が下された。Fitz-Hugh-Curtis Syndromeとは骨盤内臓炎に肝周囲炎を合併した病態であり、Neisseria gonorrhoeae, Chlamydia trachomatisの感染により惹起される。しばしば、骨盤臓器の症状が乏しく、本例のように診断に難渋することもある。確定診断には腹腔鏡検査が必要とされるが、内科的治療にて完治が見込める良性疾患であり、このような侵襲的な検査は好まれない。ゆえに画像診断による疾患特定が望まれるが、CT、超音波などでは決め手になる異常所見が得られない場合も多い。

6. 本症例では、ガリウムシンチグラフィ上、腹膜炎の存在が示唆され、疾患特定の一助になったものと思われる。Fitz-Hugh-Curtis Syndromeにおけるガリウムシンチグラフィの診断的有用性については報告がなく不明であるが、本例で示したように他の画像検査よりも客観性の高い異常所見が得られる可能性があり、本疾患を疑った場合、試みてみる価値があると思われる。また、原因がはっきりしない若い女性の腹部炎症性疾患にてガリウムシンチグラフィが施行され、び慢性の腹膜集積が認められた場合、本疾患を鑑別のひとつに挙げるべきと思われる。


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Update: Jan 2, 2004